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創業まもないころ、私は国内最大手の事務機器メーカーF社の新サービス(最適配置と従量課金を組み合わせた大型案件)の現場に飛び込みました。このF社のプロジェクトは、当時のクライアントである財閥系大手生命保険会社の全国の事業所の機器をすべて入れ替えるというものでした。全国規模の拠点で、現状を洗い出し、最適配置を提案し、導入・運用までを回し切る。聞けば、私の前に担当したPMが何人も潰れているという。正直、不安でした。それでも、やるしかない。若かった私は「才能がない分、時間でカバーする」という自分なりの戦い方で前に進みました。この仕事をくださった先輩のため、創業したばかりの会社のため、ここで成功しなければ次はなかった。
前半は、ほぼ一人でした。関係者は多いのに、誰も決めない、動かない。現場の空気と責任の重さに押しつぶされそうになりながらも、私はまず「現状整理」を異常なスピードで回すことに決めました。拠点ごとの図面を広げ、どこに何台の複合機があるのかを“絵”で把握する。利用実績を拾い、フロアごとに最適配置を描く。合意形成の会議を詰め、導入・調整の段取りまで先に切っておく。止まる理由を、ひとつずつ潰していく作業です。
やる人がいなければ、私がやる。最初に現場に入り、最後に現場を出る。朝まで作業しても、朝8時にはもう次の打ち合わせ。宿舎に寝落ちするように倒れ込む日々が続きました。あまりに物量が多いと、景色は霞み、判断は粗くなる。だからこそ、私は“型”で自分を守りました。
ステークホルダーが増えるほど、議論は散らばり、決定事項は曖昧になります。私は徹底して議事録を書き、全員に読み合わせをし、確認印をもらう運用にしました。決めたこと・決まっていないことを切り分け、次の会議までのTODOの粒度まで落とす。段取りが悪いと、プロジェクトは必ず燃えます。燃えれば、人は逃げ出す。段取りは“才能”ではない。誰でも訓練できる筋肉です。
当時、私もこの業界のことを何も知りませんでした。すべては初見から始まるのです。だから毎日テーマを一つ決め、一日中考え、答えを人にぶつけ、反応を取り入れることを繰り返しました。足りない知識は自分で取りに行く。資料がないなら作る。人が教えてくれないなら、聞きに行く。取材力こそが、プロジェクトを支えるインテリジェンスの源です。客前で「できません」「知りません」は、価値の放棄と同じ——そう叩き込まれました。走りながら学ぶ姿勢は、カオスの中でこそ、最速の武器になります。
物量は、きれいごとを許しません。現状配置の作成、最適配置の作成、導入の手配、導入後の微調整……タスクは波のように押し寄せます。できていなくても時間だから帰る——その選択肢は、プロにはありません。最後の一本が通るまで、延長戦に次ぐ延長戦を辞さない。最後に勝つのは、しつこさです。やり切ることが、次の信頼を生み、予期せぬ追加オーダーを呼び込んで、いつしか案件は横展開していきました。
地図のない広大な森を走るような感覚でした。それでも、ある時から霧が晴れます。愚直なゲリラ戦の先に、いきなり広がる視界。会議体の運用には定石がある。資料の構成にも定石がある。合意形成の順番にも定石がある。やりながら学んだ定石を“型”として言語化し、チェックリストに落としこむ。すると、プロジェクトは一気に楽になりました。自ら見つけた再現性は、若手にとって最大のセーフティーネットです。出たとこ勝負をやめて、型で勝つことを知ったのです。
途中から自社のメンバーが入ってきました。自分と同じようにムリがきき、価値観が通じる仲間が揃うと、プロジェクトは嘘のように前に進みます。「できない」と言うのではなく、「できるようにやってみる」。その姿勢さえあれば、私は全力でサポートする。役割が違えば、強みも違う。そして、地獄に仏。クライアントサイドには、社内の調整を一瞬で通してくれる年上の課長がいて、私は前線に集中できた。客先の先輩の、あの調整力がなければ、結果は違っていたはずです。
頭の回転が速いと言われることがあります。でも本当は、引き出しの数が多いだけ。毎日テーマを決め、演習の数をこなし、目上の人に答えをぶつけて反応を取り入れる——その反復で、引き出しの中身は増えていきます。物量を浴びるほど、処理速度は上がる。物量をこなして、型に落とす。これが、私の「こなせる力」が爆上がりしたメカニズムでした。
当時の私は、猪突猛進でした。口にはしないけれど、不安は常にありました。いま言えるのは一つだけ。「不安でも走れ。走り続けろ。チャンスは走る人の前にしか落ちてこない」。才能がなくても、時間でカバーできる。段取り、キャッチアップ、忍耐——この3つの力は、誰でも鍛えられる。物量を突き抜けることができれば。
国内最大手の事務機器メーカーF社の現場で学んだのは、特別な“才能”ではなく、才能ある人々を超える時間をかけてつちかった、戦い方でした。段取りで曖昧さを消し、学習で無知を潰し、忍耐で最後の一本を通す。そして、再現性のある“型”に落とす。そうすれば人に手渡していける。それがスケールするということだと思っています。Arinosが掲げる「コンサルティングの民主化」は、あの現場から始まっています。どんな人でも、型を持てば、戦える。だから私たちは、人々に型を手渡す会社であり続けます。